各ケア施設の設置は、根拠となる法律で定められています。設備基準として遵守しなければならない室用途があったり、室によって1人当たりの面積が定められている施設もあります。専門職や専従の職員数といった人員基準も満たす必要があります。
また、設置基準として定められていない室においても、生活を豊かにする工夫が必要です。一人きりになれる、景色を楽しむ、心を落ち着かる、少人数で過ごすなど様々な場所を用意することが望ましいです。施設の目的や利用する人たちの行動場面によって、その設えに工夫や配慮することが大切です。
就労支援施設とは、障害や疾患など、何らかの理由により働くことが困難な人に対して、就職して働き続けていく過程を支援する施設です。就労支援施設には、一般企業への就職にむけ、利用者の段階に合わせ、就職に必要なスキルを身につけるサポート(就労移行支援)を行う施設、一般企業での就労が困難な方のために就労の場を提供する(就労継続支援)施設、一般企業就職後の相談や助言などの支援(就労定着支援)を行う施設などがあります。障害者の方の働く場の確保、社会参加、自立へ向けてのサポート、就職活動の相談・助言、職場への定着まで支援していく施設です。
就労支援には主に、「就労移行支援」「就労継続支援」「就労定着支援」の3種類があり、就労移行支援施設、就労継続支援施設では設備基準が定められています。
設置基準により、訓練作業室、相談室、洗面所、トイレ、多目的室(支障がなければ相談室との兼用可)を設けること必要とされています。
訓練・作業室は訓練や作業に支障のない広さや機械・器具を備えることが必要で、定員1人あたり3㎡など面積が定められていることもあります。
相談室は、視線を遮り、声が漏れないように天井までの間仕切り壁などを設け、プライバシー性に配慮し、洗面所やトイレは利用者の特性に合わせた仕様のものを設置します。洗面所はトイレ用手洗いとは別で設ける必要があり、トイレは男女別など2つ以上設けるよう要請されることもあります。
就労定着支援施設は、事業をおこなうために必要な広さを確保し、設備や備品などを備えています。
小規模多機能型居宅介護施設(小多機)とは、要支援1~2、要介護1~5の認定を受けている方を対象として、可能な限り自立した日常生活が継続できるよう、施設への「通い」(デイサービス)、短期間の「宿泊」(ショートステイ)、利用者の自宅への「訪問」の介護サービスを組み合わせて利用できる小規模な居住系サービス施設です。ケアプランの作成、食事・入浴等の介助、リハビリやレクリエーションなどのサービスを受けることができます。介護度が上がっても住み慣れた地域で生活できるようにするため、原則として住んでいる市区町村の施設・事業所のサービスの利用となります。
小規模多機能型居宅介護事業の1事業所あたりの登録は29人以下までで、「通い」の1日あたりの定員は15人以下、「宿泊」の定員は9人以下となっています。本体事業所から20分以内の距離に「サテライト型」という支店のような施設を設置することも可能で、サテライト型の登録者数は18名以下、通い12人以下、宿泊6人以下となります。
施設には居間、食堂、宿泊室、浴室、消火設備を設け、居間及び食堂の合計面積は、3㎡x通いサービスの利用定員以上必要になります。宿泊室の定員は1人(利用者の処遇上必要と認められる場合は2人まで可)、床面積は7.43㎡(4.5畳)以上必要です。
施設内の設計では、転倒リスクに配慮した床材の選定、開け閉めのしやすい扉、体を預けやすい手摺の形状など高齢者が快適に過ごすことができるための細かな配慮が大切です。
ホスピスは、末期がんや難病などによって余命わずかな人に対して、苦痛や不快を緩和し、最後の時間を穏やかに、自分らしく過ごすことを目的とする施設です。
病院と違い、病気治療・延命措置を目的としておらず、残された時間の生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目的とし、病気にともなう身体の痛みや精神的な不安をやわらげる緩和ケア(ホスピスケア)、ターミナルケアを提供します。また本人や家族の経済的な悩みの相談援助なども行います。
ホスピスでは、症状の進行に伴い、徐々に身体機能が低下していきます。最後のときまでできるかぎり日常生活を維持し、利用者の尊厳を大切にする建築的配慮が必要です。
居室は、プライバシー、家族との時間、室内環境の個別調整に配慮できるように、全室個室であることが基本です。食事、身体の清潔、排せつなどは最後まで自分で行うこと希望することが多く、個室内にトイレと洗面台を最低限設置するなど、個人の尊厳を保てる環境を整えることが重要です。車椅子利用や、点滴台を持ったままでも通りやすいように扉や通路の幅を十分に確保し、段差のないすべりにくい床材とするなど、バリアフリーの完備も必須です。また、和室や畳コーナー、中庭など気分を変えるためのいろいろな場所を用意することや、利用者の家族が一息つけるような場所を設けることも大切です。
訪問介護とは、訪問介護員(ホームヘルパー)や介護福祉士(ケアワーカー)が、介護を必要とする高齢者や障がいを持つ方の自宅を直接訪問し、食事・入浴、排せつなどの介助や、洗濯・掃除・調理などの生活援助、通院時の移動介助など、日常生活を支援するサービスです。利用者が自宅で自立した生活を送れるようサポートすることを目的としており、介護をする家族の負担を軽減する役割もあります。また、訪問介護は、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など介護サービスのない施設でも利用することが可能です。
訪問介護事業所は、細かい設置基準などはありませんが、運営するにあたり、事務室、相談室、手洗い設備、備品の収納、専用自動車の駐車スペースなどが必要になります。
事務室は面積などの基準はありませんが、管理者などの常勤のスタッフが1人以上必要になるため、その人のための作業スペースや、人員に合わせ事務作業ができるスペースを設けます。訪問介護事業外の事業と同じ事務所を使用することも可能で、その場合はカーテン・パーティションなどの間仕切り等で明確に区画します。
相談室はプライバシーに配慮し、パーティション等で区切ったり、天井まで壁を設けた部屋で仕切る必要があります。そのほか、机、いす、パソコン、電話、鍵付き収納などの備品や、衛生のための手洗い設備が必要になってきます。(手洗いは他事業との共有も可)そのほか、自治体で独自の基準を設けている場合もあるため確認が必要です。
グループホームは、介護を必要とする65歳以上の認知症の高齢者で、要支援2または要介護1以上の認定を受けた方が対象の施設です。「ユニット」とよばれる共同生活住居で5~9人の少人数で共同生活を行い、認知症の進行を遅らせることを目的としています。認知症の方が穏やかに暮らしやすいように小規模で家庭的な雰囲気な中で共同生活を行います。家事を分担したり、利用者同士のコミュニケーションを通して、自立した日常生活を送れるようになることを目的としています。
グループホームは、小規模で家庭的な環境の中で生活できるようにユニットケアが基本となります。ユニット(共同生活住居)の定員は5人以上9人以下とされており、ユニットは1つの施設に1ユニットまたは2ユニットまでと決められています。(地域状況などによって必要と認められる場合には3ユニットまで)
居室は、原則個室とし、1人で落ち着き、安心できるプライベートな空間を確保します。(居室面積は7.43㎡(4.5畳)以上)居室や居室に近接してリビングなどの共有スペースを設け、利用者同士で交流できる場所とし、孤独を感じないつくりとします。家庭的な環境を前提するため、民家や集合住宅などを改修して設置することも多いです。また、施設自体が孤立しないよう、家族や地域の人と交流の機会が確保される立地を選ぶことが大切です。
ケアハウスは軽費老人ホームの1つ(経費老人ホームC型)で、身寄りがない、または経済的な理由などで家庭での生活が困難な高齢者が入居し、食事や洗濯、入浴など日常生活で必要なサービスを受けながら自立的な生活をする施設です。「自立型」と「介護型」の2種類があり、どちらも低額な料金で利用できます。介護型は原則として要介護1以上が対象となり、スタッフも24時間常駐しています。一般型は安否確認や日常生活の支援を受けながら自由度の高い生活を送ることのできる施設です。
ケアハウスは主に居室、一時介護室、浴室、便所、食堂、機能訓練室などにより構成されます。居室は原則個室で、洗面所、便所、収納設備及び簡易な調理設備を設けます。
居室の床面積は1人あたり21.6㎡以上(洗面所、便所、収納設備および簡単な調理設備を設け、これらを除いた有効面積は14.85㎡以上)必要です。夫婦利用などの場合は31.9㎡以上になります。ただし、10程度の数の居室および居室に近接して設けられる共同生活室により構成される区画(ユニット)の居室の設備基準は、1人あたりの床面積15.63㎡以上(洗面所、便所、収納設備および簡単な調理設備を設け、これらを除いた有効面積は13.2㎡以上)となります。居室は地下に設けることはできず、緊急連絡用のブザー等を設置することが必要です。
また、施設内には一斉放送設備を設け、居室が2階以上にある場合にはエレベーターを設けるなどの基準があります。
介護付き有料老人ホームとは、有料老人ホームの1つで、介護スタッフが24時間365日常駐し、介護サービスが受けられる高齢者向け居住施設です。「介護専用型」「混合型」の2種類があり、いずれも原則として65歳以上が対象となっています。食事や排せつ、入浴など日常生活上の介護、看護ケア、リハビリのサポート、レクリエーションが楽しめるなど、サービスの充実が特徴です。介護付き有料老人ホームは、行政から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けている介護施設(特定施設)で、介護保険制度により介護サービスを受けられるようになっています。
介護付き有料老人ホームは特定施設であるため、設備基準が定められています。
建物は火災などの避難時にも、介助が必要な高齢者が逃げ遅れることのないように耐火建築物としなければなりません。(一定の要件を満たせば準耐火建築物も可)
居室は原則個室とし、1人あたり13㎡以上の面積が必要なります。居室を地階に設けることはできず、日照、採光、換気等入居者の保健衛生に十分な配慮が必要です。
共有スペースには食堂、談話室、浴室、機能訓練室などを設け、浴室は身体の不自由な人も入浴できるように機械浴、特殊浴を設けることが多いです。
車椅子移動に配慮した空間・構造であることが必要で、片廊下の幅は1.8m以上、中廊下の幅は2.7m以上確保します。(全個室18㎡以上で片廊下の幅1.4m以上、中廊下の幅1.8m以上)そのほか段差のない通路、手すりの設置などバリアフリーの整備が必須となります。
住宅型有料老人ホームは、生活支援サービスが付いた高齢者向けの居住施設です。
基本的には自立~軽度の要介護の60歳以上の方を対象としており(施設によっては若い方、介護度の高い方も入居可)、介護サービスは外部の事業者による訪問介護などを利用します。要介護度の低い人や自立している人が多いので、イベントやレクリエーションが充実していることが特徴。必要な介護は各自で選択し、生活援助を受けながら、イベントなど他の入居者とコミュニケーションをとりながら楽しく過ごすことができる施設です。
高齢者が安心して生活できる環境を整えるため、生活を支える基本的な設備を備え、必要面積を確保する必要があります。居室は個室とし、1人あたり13㎡以上の面積を確保し、トイレ、洗面所、スプリンクラー、ナースコール、収納設備を設けます。トイレや洗面台は共有スペースに必要数設けることができれば必須ではありませんが利用者が快適に過ごすことができる環境であるか確認することが重要です。また、居室を地階に設けることはできず、日照、採光、換気等入居者の保健衛生に十分な配慮が必要です。
建物内は、車椅子利用者も快適に生活ができるように、廊下の幅は片廊下1.8m以上、中廊下2.7m以上確保するなどバリアフリーの整備が必須です。共有スペースとなる食堂と機能訓練室は1人あたり3㎡程度を目安とし、利用同士、地域との交流の場でもあるため開放的で明るい空間することが望まれます。
特別養護老人ホーム(特養)は、在宅での介護が困難で常時介護が必要な高齢者を対象とした介護施設です。介護保険上は「介護老人福祉施設」とよばれます。
原則として65歳以上の要介護3以上の方が対象となり、食事や入浴などの日常生活上の支援や機能訓練、療養上の世話など、24時間体制で介護サービスを受けることができます。長期間の入所が可能で、看取りまで対応している場合も多く、「終の棲家」としての役割も担います。有料老人ホームに比べて費用が安く、人気のため、入居待ちが多い施設です。
特別養護老人ホームは、「ユニット」とよばれる、おおむね10人以下の小グループに分かれて介護を行います。居室は原則個室とし、居室はユニットごとの共同生活室に近接して一体的に設けます。居室は1人あたり10.65㎡以上(2人部屋は21.3㎡以上)、共同生活室は2㎡×ユニットの入居定員以上の面積が必要です。そのほか食堂及び機能訓練室(入所定員×3㎡以上必要)、浴室、静養室、調理室、医務室、介護職員室などを設置が必要です。
プライバシーの守られたプライベートな個室空間、セミプライベートな共同生活室、ユニット同士をつなぐセミパブリックな共用空間、地域住民との交流も可能なパブリックスペースと段階的なゾーニング計画を行い、家族や他の人たちとの関係の中で尊厳をもって生活することのできる環境を整えることが重要です。
サービス付き高齢者住宅(サ高住)は、60歳以上の高齢者(もしくは要介護認定をうけている方)が対象で、安否確認、生活相談などのサービスが受けられる賃貸住宅です。あくまで住居であるため制限が少なく、生活の自由度が高いことが特徴です。高齢者が住みやすいようにバリアフリーが完備され、最低面積の確保、必要な設備が用意されています。ケアの専門家が日中常駐し、安否確認、生活相談などの見守りサービスを行うため、生活に不安のある高齢者が安心して暮らすことができる施設です。
サービス付き高齢者住宅の各専用部分には、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備え、(ただし、共用部分に共同して利用するため適切な台所、収納設備または浴室を備えることにより、各戸に備える場合と同等以上の居住環境が確保される場合は、各戸に台所、収納設備または浴室を備えなくてもよい)原則として専用部分の床面積は25㎡以上と定められています。(居間、食堂、台所そのほかの住宅の部分が高齢者の共同利用に十分な面積を有する場合は18㎡以上)また、施設内には、安否確認、生活相談をするケア専門家が日中常駐するためのスペース確保も必要になります。
施設内はスロープや手すりの設置、十分な廊下幅の確保など、すべてバリアフリー構造とし、緊急通報装置や見守りセンサーなどを設置することで、安全な生活を送るための環境が整えます。